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  • 執筆者の写真medicaproject 医療福祉ライター今村美

ラッキーをたぐりよせるのは。

大きな仕事へと続くラッキーをたぐりよせるのは、結局のところ丁寧な取材と丁寧なテープ起こしと丁寧な原稿という地道な作業の積み重ねである、と再認識した昨日の医学ジャーナリスト協会主催の基礎講座。

W講師だった今回は、フリーの医学ジャーナリストとしてテレビにも多数出演・著書は約60冊という松井宏夫氏と、産経新聞の記者としてリクルート事件や薬害エイズ問題などその時代を象徴するような事件に向き合ってこられた木村良一氏。

両講師陣の講演内容もさることながら、フロアからの「専門家をどう見極めるのか、正確な情報であることをどう担保するのか」という質問はとても興味深かった。世界中で出されている医学論文等に比較的容易に誰もがアクセスできるようになった現代では、第一線で活躍する臨床の医師(専門家)に取材すると同時に、その医師の情報を裏付けする医学論文を読みこなす力もジャーナリストには求められているのかもしれない。もっともジャーナリストはある程度専門性を持ったとしても、その道の「専門家」(臨床家?)であるわけではないので、正確な情報を提供してくれる専門家を見極める能力がやはり大事なんだろう。

ここで前回の講師だった勝俣先生の話にもつながっていくのだが(参加できず非常に残念だったのだけれど、ゆき(大熊由紀子)さんがパワポをUPしてくださったおかげで、大まかな内容を知ることができた。ありがたい!)、治療研究の文献を読む際のチェックリストを参照するまでもなく、「専門家」ですら文献を読みこなすのは困難と思われる。ちなみに、エビデンスレベル(情報のランク付け)で信頼性の最も高いレベル1にあたるのは、「ランダム化比較試験の統合解析/患者数の多いランダム化比較試験」。 そして、「標準治療」というとなにやらたいしたことがなさそうな印象すら抱かれがちな昨今だけれども、現時点での「最善の治療」であり、ランダム化比較試験を乗り越えて認められた標準治療は、オリンピックにおける金メダリストのような治療法であるということには言及しておきたい。 講座後は、4月からの大学院のOB会と卒業生を祝う会と新入生歓迎会を兼ねたような会へ。この席で、近藤誠論を修士論文で書かれていたOBと新しい修士1年(なんと81歳!京都から毎週通われるという)の論争勃発。OBの「これからも第2第3の近藤誠は現れるし、その原因は標準治療にある」という言葉を聞いて、標準治療=ごく一般的な病院や医師たちの対応による不安・不満が近藤誠氏への患者の信仰につながっているという現実もまたきちんと受け止めて、単なる近藤批判に終わらせないことの重要性を思う。 話はあちらこちらに飛んでしまったけれど、刺激的な学びの一日。 個人的な共感としては、松井氏がいまでもテープ起こしを自分で行っていらして、2度聞くことで、知識も定着するし、「ほとんど直しのない原稿」につながるというお話。とりわけインタビュー記事に関しては、赤が入ることは私自身もほとんどない。だからそういうものなのだろうと思っていたら、インタビュー相手から「いつもは赤だらけなのに、私にしては赤がない」という声を複数いただいて、そうでもないらしいと気付いた。「ほとんど直しのない原稿」は、相手の言葉に、相手の伝えたい思いに寄り添った結果だと思うのだけれど、そもそも私自身の内にある「伝えたいなにか」と共振するようなインタビュー相手に出会えてきたことが大きいようにも思う。ありがたいこと。 そして、今日は3月11日。今年こそ、足を運べるだろうか。医療の世界に入りたての頃に取材を通じて出会ったひとりの医師が、大学病院での順風満帆な医師人生を捨て、福島の地で生きていくことを決めたことを知った時、驚くよりも先生らしいなぁと心のどこかで合点がいった。再会は、まだ、実現していない。

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