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『認知症になっても住み慣れた地域で暮らすために』

  • 執筆者の写真: medicaproject 医療福祉ライター今村美
    medicaproject 医療福祉ライター今村美
  • 2019年12月5日
  • 読了時間: 12分



11月24日(日)は、山梨県山中湖村にて、川崎幸クリニック院長の杉山孝博先生の講演会が開催された。在宅医療の先駆け的存在である杉山先生は、医師でありながら、認知症の家族会にも早期から関わり、公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事・神奈川県支部代表として、長年、認知症に関する正しい知識と理解のために貢献してきた人物でもある。


そんな杉山先生のお話はとにかくわかりやすい。そして、家族が「先生、頭ではわかるけど、そんなことできない!」と言いそうなことも織り込み済みで、どこまでも認知症の本人や家族目線で話が展開する点、さすが長年認知症と付き合ってきた医師。子連れで有料老人ホームに住み込み取材するなど、認知症の人たちと共に生活する経験を多少持つ私自身にとっては、その時の私の対応は中らずと雖も遠からず、なかなかいい線いっていたんじゃないのと答え合わせをしているような気分でもありました。


では、早速、杉山先生の講演内容をご紹介していきましょう。



目次

1.認知症をよく理解するための9大法則+1原則

2.認知症の人の言動を理解するための3原則

3.認知症の‘予防’について考えること

1.認知症をよく理解するための9大法則+1原則



1.認知症をよく理解するための9大法則+1原則

まず、杉山先生は、認知症を「記憶力・判断力・推理力などの知的機能の低下によってもたらされる生活障害」と定義とした上で、認知症の症状をよく理解り、上手に対応するための法則を9大法則+1原則とわかりやすく整理♪


第1法則:記憶障害に関する法則

記憶障害に関する法則には、ざっくり3つの特徴があります



① 記銘力低下:話したこと、見たこと、行ったこと、直後にはすっかり忘れてしまうほどのひどい物忘れ。同じことを繰り返すのは毎回忘れているから。


対応のヒント:短時間に何度も何度も同じことを繰り返されると介護者がイライラしてくるのは当然のこと。毎度このネタあのネタで切り返すうちに、こちらもネタ切れでさらにイライラは増していく…(泣)でも認知症の人は忘れるから何度も繰り替えしているのです。こちらも「How are you?」に対して条件反射で「I’m fine, thank you」と答えてしまうように、毎回同じことを答えればよいだけのこと。そうすれば、余計な労力をそこに割かずにさらっと流せるようになる分、介護者の負担も減っていきます。


② 全体記憶の障害:食べたことなど体験したこと全体を忘れてしまう。


対応のヒント:食べた直後に「夕飯はまだ? お腹が空いた」と食べたがるのは、認知症でよく見られる症状の一つ。「何言ってるの!さっき食べたでしょ!」はもちろんNG。本人は食べたことをすーっかり忘れてしまっているわけですから、「ご飯もろくに食べさせてくれない」と事態の悪化につながりかねません。「これから夕飯の準備をするから、ちょっと待ってて」で済むならそれもあり、小さいおにぎりを準備して、「夕飯までもう少しだけど、おにぎり食べる?」もあり。


ちなみに、杉山先生曰く、「認知症の人には過食の時期があり、2~3人分食べてもOK。お腹を壊すこともなければ太ることもない。この時期の認知症の人は動きが活発で、大量の排便がある。極めて正常な食べ方とも言えるし、エネルギーバランスは取れている。食べてもらって落ち着きが取り戻せるなら、はいどうぞと食べてもらったほうがいい。とはいえ、食事を小分けにして出すなど、介護者ができる工夫は大切!」


③ 記憶の逆行性喪失:ある時代の記憶までさかのぼって忘れ、昔の世界に戻る。


5年とか、10年とか、あるいはもっと、ごーっそり記憶が抜け落ち、時代がタイムスリップしてしまいます。ある人はバリバリ仕事を活躍していた頃、ある人は幼少期。


対応のヒント:これもとっても身に覚えがあります。もう何年も前に老人ホームに住み込み取材をしていた時、同時期に同じ階に住んでらした「お隣さん」の認知症のAさんは外出願望の強い方で、よくふらりとホームの外に出かけられていました(この老人ホームは鍵をかけず、ご利用者さんもスタッフも、ホーム内にある食堂やカフェ、図書館などを利用する外部の方も出入り自由!なのです)。


ある時、靴を履いてどこかへ出かけようとされているAさんに「どちらかお出かけですか?」と声をかけると、「現場!」との返事。Aさんは地域で有名な建物を複数手がけられてきた建設会社の社長さん。その現場に行こうとされているのだと気付き、「どちらの現場ですか?」と返すと、「〇〇」と私も知る建物の名前が出てきました。そこで、「Aさんはほかにどの建物を手がけられたんですか?」と聞いているうちに、外出願望は消えて、自分の手がけた建物について楽しそうに語り始めてくださいました。認知症になってもその人にとって大切なこと、その人らしさはなくならないということに気づかせされた、私にとって大切な思い出の一つです。


認知症の人がいま住んでいる時代に一緒にタイムスリップしてみれば、辻褄は合っていて、おかしなことはなにもなくなる。老人ホームで幾度となく体験したことです。娘を自分の妹と勘違いするのもごくごく自然なこと。まだ自分の子どもがいない世界にタイムスリップしているだけなのですから。杉山先生が一例として語ってくださったのは、「90歳近いおじいちゃんに食事を運んだら、布団の中に入ってくるように言われた」と悩んでいるお嫁さんのエピソード。これも息子の嫁に色仕掛けをしている、なんてことではまーったくなくて、40代に戻っているおじいちゃんにとっては息子嫁が自分の妻に見えただけのこと。「食事を持っていく際に、嫌がらずに、手でもさすってあげたら、そのうちおさまりますよ」の助言通り、半年くらいで症状はおさまったと言います。



第2法則:症状の出現強度に関する法則。

ずばり、身近な人に対して、認知症の症状がより強く出る。


これね、介護者の方にはとーっても身に覚えのあることかと思います。が、同時に、「なんで一番面倒みとんのに、理不尽やろ!」と叫びたくなる法則でもありますよね、ホント。


対応のヒント:

杉山先生からのアドバイスは、子どもに置き換えて考えてみること。子どもは母親に対して一番傍若無人な態度を取りがちですが、決してわざとやっているわけではなく、絶対的信頼があるから。安心しているからこそ甘えている。認知症の人も同じです。信頼する人だからこそ、甘えているのです。決して意地悪でやっているわけではないのです。



第3法則:自己有利の法則

自分にとって不利なことは認めない。


これも介護者から「あるあるあるある」の声が聞こえてきそうです。トイレに間に合わず阻喪してしまったのを孫のせいにしてしまう、などなど思い当たるエピソードを皆さんお持ちではと思います。


対応のヒント:杉山先生が語ってくださったのはこんなエピソード。とあるデイサービスにやはり会社経営をしていた社長さんが通っていました。デイにいる人みんなを社員だと思い込んでおり、横柄な態度をとるので、他のご利用者さんからの評判もよくありません。

ある日阻喪をしてしまったのですが、決して認めず、ズボンを替えさせてくれようとしません。そこで、スタッフの一人がわざとズボンに水をかけ、「社長、申し訳ありません」と謝り、ズボンを替えさせてもらえるよう頼むと、すんなり替えさせてくれました。以降、みんなが「社長」「社長」と呼び始めると、むっすりしていた社長さん、すっかりご機嫌で過ごされるようになりました、とさ。



第4法則:まだら症状の法則

正常な部分と認知症として理解すべき部分とが混在する。初期から末期まで通してみられる。


対応のヒント:「正直的な人だったらしないような言動をある人がしているために周囲が混乱している時には、「認知症の問題」が発生しているのだから、原因になった言動は「認知症の症状」として捉える」と、杉山先生。

有料老人ホームに一緒に住み込んだ当時3歳だった娘が大好きだったIさんは、「どんどん自分の頭がバカになっていく」とよく口癖のように言いながら、「バカにならないように」と毎日漢字の練習をされていたことを思い出します。「どうせ忘れてしまうのだから本人はいいよね」という言葉を耳にすることがありますが、まだらだからこそ、ご本人も苦しんでいらっしゃるのだということは、忘れないようにしたいものです。



第5法則:感情残存の法則

認知症の特徴として記銘力低下があるため、言ったり聞いたり行ったりしたことはすぐに忘れるものの、感情は残像のように残る。


対応のヒント:

①ほめる、感謝する ②同情(相づちを打つ)③共感(「よかったね」を付け加える)

④謝る、事実でなくても認める

介護者の中には正しく聞いて、正しく答えなくてはと思っている真面目な介護者が少なくないけれど、大切なのは、負の感情を残さない言葉遣い♪

「お金を盗った」と言われるならば、「この前集金があった時に、おばあちゃんのお財布からお借りしてしまったんですよ。すみません、今戻しますね」と実際にお財布に1万円を入れるところを見せて(あとでこっそり回収)するような演技力も時には大切です。



第6法則:こだわりの法則

ひとつのことにこだわり続ける。説得や否定はこだわりを強めるのみ。


対応のヒント:

「本人の安心につながる対応が大切」と語る杉山先生からの8つの対応法!


①こだわりの原因をみつけて対応する

②そのままにしておく

③第三者に登場してもらう

④関心を別に向ける

⑤地域の協力理解を得る

⑥一手だけ先手を打つ

⑦本人の過去を知る

⑧長期間は続かないと割り切る


認知症の方のエピソードでよく聞くのが「警察の人から言われたらすんなりと聞いていて驚いた」「ドクターの言うことならよく聞いてくれる」というもの。第三者に登場してもらうのはよく効く対応ですが、とりわけ、医師や警察の人という権威ある人の威を借るのは有効なようですよ~。


にっちもさっちもいかない事態に陥った時に案外切り札となるのが、好きな食べ物。ご本人の好きな和菓子などを出して関心をそちらに向けると、こだわっていることへの関心が一時和らぎ、その場が収まることも。


本人の過去を知ることもとても大事ですが、杉山先生が語ってくれたのは、米屋の前を通ると毎回米を買ってしまうおばあちゃんのお話。戦争を体験したこの世代は、お米が得られない大変さが身に染みています。米を見ると、「いま買っておかなくっちゃ」という強迫観念に襲われてしまうのも道理。そこで、米屋さんに相談し、先に米を買って預けておき、おばあちゃんが買ってきたらそれをまた米屋に戻し、を、繰り返したそうです。


認知症の症状は、大体半年~1年で変わっていきます。長期間は続かないと割り切って、上手な対応を見つけていきたいですね。



第7法則:作用・反作用の法則

強く反応すると、強い反応が返ってくる。


対応のヒント:

認知症の方でなくとも我々みんなこういうところありますよね。強く言われるとつい強い言い方で反撃してしまう。杉山先生からのアドバイスは、「認知症の人と介護者の間に鏡を置いて、鏡に映った介護者の気持ちや状態が認知症の人の状態。押してダメなら引いてみる。感情残存の法則を思い出しながら、上手に対応しましょう。」



第8法則:認知症症状の了解可能性に関する法則

老年期の知的機能低下の特性から、すべての認知症の症状が理解・説明できる


対応のヒント:

これ、どういうことかとかみ砕いて説明すると、「認知症の症状はよくわからない」、とりわけ渦の中に巻き込まれている介護者は「おじいちゃんがなぜこんなことをするのかわからない!」「おばあちゃんが意地悪をしているとしか思えない」というふうに捉えてしまいがちですが、認知症の症状は高齢による機能低下から出現しているものであって、ちゃんと理屈で説明ができる、ということ。


75~70歳では認知症になる人は20%に届かない程度ですが、85~89歳になると40%を超え、90~94歳で60%を超え、95歳以上では80%の人が認知症を発症しているという研究もあります。つまり、歳を重ねれば重ねるほど、認知症になる可能性は高くなる。長く生きられるようになったからこそ出現している認知症の症状は、老年期の知的機能低下の特性を正しく理解し、適切な対応をすることで、上手に付き合うことができる、と言ってもよいかもしれません。


第9法則:衰弱の進行に関する法則

認知症の人の老化の速度は非常に早く、認知症になっていない人の約2~3倍のスピード。正常の高齢者グループの④年後の死亡率が28.4%であるのに対して、認知症高齢者のグループの4年後の死亡率は83.2%(長谷川和夫・前認知症介護研究・研修東京センターの報告)。



介護に関する原則認知症の人の形成している世界を理解し、大切にする。その世界と現実とのギャップを感じさせないようにする。



2.認知症の人の激しい言動を理解するための3原則


認知症の人は、周囲の人々に対して、暴言・暴行・興奮・拒否などの激しい言動を取ることが少なくありませんが、これは専門職にとっても対応が難しいもの。杉山先生は、「「介護者に向かって暴言を吐く」「やさしく説明したのに聞き入れてくれない」「突然起こり出して殴りかかってきた」というように、多くの人は認知症の人の側の激しい言動としてとらえられがちだけれど、認知症の人の言動の大部分は、周囲の人の言動に対するリアクションであると考えている」と言います。


そこで、認知症の人の激しい言動を理解するために、杉山先生がまとめたのが次の3原則。この3原則に触れた時に、認知症の人の激しい言動を招くというわけですが、私の経験から考えても、とても腑に落ちる3原則です。


第1原則:本人の記憶になければ本人にとっては事実でない

第2原則:本人が思ったことは本人にとって絶対的な事実である

第3原則:認知症が進行してもプライドがある


4.認知症の予防

認知症を確実に予防する方法はなく、「予防というよりも認知症を受け入れられるような地域づくりが大切」と杉山先生も強調するように、近年やたらと予防ということが叫ばれていますが、老化現象である以上予防なんかできるかい!と内心思う私がいますです、ハイ。「認知症はいずれ自分もなるもの」として、認知症の症状があろうがなかろうが楽しく生きていける地域、楽しく生きていける社会を作ればよいだけのこと。そのことを踏まえた上で、杉山先生の考える認知症にならないための、というよりは毎日を楽しく生活するための10カ条をご紹介。


第1条:脳血管を大切にする(具体的には第2条以降~の生活がここにつながります)

第2条:食生活を整える

第3条:運動を心がける

第4条:飲酒・喫煙が過度にならないようにする

第5条:活動・思考を単調にしないように努める

第6条:生き生きとした生活を

第7条:家族・隣人・社会との人間関係を普段から円滑にしておく

第8条:自らの健康管理を心がける

第9条:病気や障害の予防や治療に努める

第10条:寝たきりにならないように心がける


【まとめ】

まずは、なぜその症状が出ているのかを認知症の正しい理解に基づいて考えること。その上で対応にあたっては、役になりきって演技する俳優力も重要!時には悪役も引き受けるべし。認知症の人の世界に共に浸ってみれば、理屈は通っていることに気が付けるはず。奥深い認知症の世界で起きるドタバタ劇を、周囲の人たちや専門職、利用できる制度などと協働しながら、演じ切りましょう!がんばりすぎず、リラックスする時間を持つこと、上手に息抜きすることも忘れずに。


参考文献:

杉山先生講演資料


※本記事は杉山先生の講演内容に基づき、自身の解釈やエピソードを交えて構成されています。講演資料および講演内容の掲載許可はいただいていますが、文責は私(医療福祉ライター今村美都)にあります。


 
 
 

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